ぶどう・スチューベンの生産量日本一を誇る鶴田町で
果樹の観光農園を営むのが夢!
夫婦で移住し、地域おこし協力隊として活動中
2018年7月、埼玉県から移住し、鶴田町地域おこし協力隊に就任した山田俊さん・園実さん夫妻。鶴田町に来てまだ1年に満たないにも関わらず、誰からも愛されるキャラとバイタリティで地元のネットワークを拡大中。県外出身者ならではの視点で、鶴田町をはじめ青森県の魅力を積極的に発信している
手厚いサポートに心が動き
鶴田町への移住を決意
「こんにちは!」。はつらつとした明るい笑顔で、待ち合わせ場所に現れた山田俊さんと園実さん夫妻。なんともさわやかな印象のお二人だ。夫の俊さんは、岐阜県出身。鶴田町に住む前は、セールスプロモーション業界で商品の発送などを管理する仕事をしており、大阪や東京で9年間、サラリーマン生活を送っていた。一方、妻の園実さんは、東京都八丈島の出身。移住前は、東京都内で幼稚園教諭として働いていたという。
「私の母が、青森県の旧・中里町出身なんですよ。祖父母は今も青森市に住んでいるので、ここ数年は夫婦で青森ねぶたに参加したり、五所川原市の立佞武多祭りを観に来ていました」と、園実さん。
俊さんは、サラリーマン時代から、「手に職をつけたい」という思いがあり、農業に興味があったという。「将来的にどんな農業をめざしたいか、と夫婦で話し合った時に、農産物を作って市場に売るだけではなく、直接、お客さまと関われるような果樹の観光農園をめざしたいと思ったんです」。
東京にある「ふるさと回帰支援センター」に相談に行ったところ、鶴田町でスチューベンに関わる地域おこし協力隊の募集があることを知った。「私たちは当時、全都道府県を視野に入れて移住先を考えていたので、果樹栽培がさかんな山梨県など、東京以南に移住することも想定していました。ところが、鶴田町役場の担当の方がとても熱心で、心が動いたんです。ペットの猫を連れての引っ越しでしたが、ペット可の一軒家を探してくださるなどとても親切だったので、鶴田町に住みたいと思いました」。
住民の優しさと温かさに支えられ
地域おこし協力隊としての任期は3年間。ミッションは、スチューベンの販売促進を切り口とした町のPRと地域の情報発信。昨年は、スチューベンを使ったワインの仕込みや、板柳町にある県内最古の酒蔵で日本酒づくりを体験した。弘前市に移住し、新規就農した若手農家の先輩を訪ねてアドバイスをいただいたり、江戸時代から続く伝統野菜「一町田のせり」の収穫を体験させてもらうなど、土地に根付いた農業を学びながら、積極的にネットワークづくりに励んでいる。
鶴田町の水元小学校の子どもたちと一緒に、「雪室りんご」の掘り起こし体験にも参加。「雪の中から掘り起こしたりんごは、みずみずしくて切った瞬間に果汁がぴゅっとほとばしるんです。もともとは、冬場に野菜を貯蔵する方法だったと聞き、雪と共存しながら生きてきた昔の人の知恵ってすごいですね。雪室スチューベンの事例はまだないそうなので、挑戦してみたいですね」と、2人は目を輝かせる。
手仕事が好きな園実さんは、こぎん刺しや、スチューベンの皮を使ったオリジナルの草木染めにも挑戦している。「幼稚園に勤務していた頃、親子教室で染め物をやった記憶を呼び覚ましながら試行錯誤中(笑)。この話をしたら、『染め物に使って』と、知り合いの方が、スチューベンを4箱届けてくれたんです。これ以外にも、家に帰ると玄関先に野菜や果物がたくさん。『名前が書いていなかったら私だからね』っていうご近所さんがたくさんいるんです(笑)」。
初めての雪国暮らしは、雪かきや水道の凍結など、アクシデントもたくさん。「そのたびに、近所の方に助けていただいて、皆さんの優しさと温かさに支えられています」。
「第18回ふるさと自慢わがまちCM大賞」に出演
鶴田町といえば、「ハゲの光は希望の光。暗い世の中、明るく照らす」をキャッチフレーズに、抱腹絶倒の活動を繰り広げる「ツル多はげます会」や、マツコの「月曜から夜ふかし」で全国的に有名な津軽弁マスターなど、魅力あふれるキーパーソンの宝庫。鶴の舞橋やスチューベンなど名所や名産品だけではない、“人”もまた、この街を面白くしている要因だろう。
移住して1ヶ月目のこと。園実さんに、鶴田町をPRするテレビCMの出演オファーが舞い込んだ。誘ってくれたのは、鶴田町に住む20~30代のメンバーで結成した「つるた街プロジェクト」。まちあるきのガイドをはじめ、若者目線で鶴田の魅力をさまざまに発信しているグループである。
通称「つるプロ」がプロデュースし、園実さんがキャストとして関わったCMは、『小さい 近い ぬくもりのまち 鶴田』と題し、家族のふれあいを描いたほのぼのと温かい作品。第18回ふるさと自慢わがまちCM大賞において、県内最高賞の大賞を受賞した。「津軽弁のアクセントが難しかったけど、撮影は楽しかった。これがきっかけで、キャンドルナイトなどのイベントにも参加するなど、同世代の仲間が増えました」。大賞に選ばれた鶴田町のCMは、特典として年間365回放映される権利が与えられ、鶴田町の魅力を広く発信している。
人と人がふれあえる、ちょうどいい距離感の街
この春から2人は、津軽ぶどう協会の成田義弘会長のもと、スチューベン栽培の技術を本格的に学んでいる。俊さんは、昨年、成田会長からかけてもらった言葉が忘れられないという。
「おまえたちが3年後、ぶどう農家として独立する時のために、新しい品種のぶどうの苗木を買っておいたからな。機材でも何でも貸すし、ぶどうのことは何でも教える。だから、がんばれよ!」。
2人を全力で応援してくれる先輩たちに見守られ、夢に向かって一歩ずつ歩み始めている。
「CMのタイトルじゃないけど、鶴田町はコンパクトで、人と人がふれあえる、ちょうどいい距離感の街。私が育った島には田んぼがないので、田園風景を見ているだけで癒やされます。それに、温泉も多いので、週3回は温泉に通っています。」と、園実さん。俊さんも「朝、岩木山が見えると、車を停めてつい写真を撮りたくなる。今年は、県内全市町村を巡ってネットワークを広げること、そして、何よりもスチューベンの栽培技術をしっかりと身につけられるよう努力したい」と、夢を語る。
地域の方から愛される人なつっこい山田夫妻がこの地に根を張り、観光農園をオープンさせる日が本当に楽しみだ。